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02/若者たちの社交場ディスコテーク [青年は荒野をめざした/北欧編]

ユースホステルに宿泊しながら職探しの数日間を過ごした。

7月は白夜の夏の真っ盛りで時期も悪かったのか、なかなか仕事が見つからなくて所持金の減ってゆくのが気がかりになってきた。 

手応えもなく焦燥感ばかりで無味乾燥な日中の生活は夕方になると疲労感を増幅させる。
気晴らしに若者たちの集まるディスコテークに出掛けたのは人恋しさもあったのかも知れない。
一時の気晴らしのつもりで顔を出したつもりだったが、不思議な心地良さが身に染みていつの間にか夕暮れの日課のようになってしまっていた。

当時ヘルシンキの街には現地でアルバイトをしながら暮らしている日本人が多くいた。
スウェーデンやデンマークなど北欧はアルバイト天国と言われていて、うまく仕事に就ければ高水準の給与に福祉国家の生活は快適で、フランスやイタリアからも短期アルバイトの若者が集まって来ていたのだが、
北欧の中でもこのフィンランドは特に日本人に好意的な国として評判で、その噂から日本人が多く集まっていたのだった。

朝から駅前のラビントラ(セルフサービス形式の軽食レストラン)で過ごしていると、いつの間にか街に住む日本人たちが集まって来て情報交換をしたり井戸端会議の様相になっている。
そして午後になるとそれぞれが仕事に出掛けたり、遊びに出掛けたりといった調子で散り散りになってゆき、夕暮れになると再びディスコで顔を合わせるという、何とも不思議な生活習慣だった。

そんな日々を漫然と過ごしていた時に、所持金全額を盗難に遭うという事件が起きた。
いつの間にか無職状態も忘れてのんびりと過ごしていた私は、頭を殴られたようなショックで覚醒させられたのだが…。

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 ▲ヘルシンキのメインストリート「マンネルハイム通り」(~絵葉書より)

人というのはショックがあまり大き過ぎると、ただ茫然としてあまりジタバタしないものだ。少し盗まれたくらいならガッカリ気落ちして油断した事を後悔したり悩んだりするのかも知れないが、全額を失って無一文になると悩んでいても始まらない事を悟らされる。
「明日から一銭も無い生活なのだ」という事実に直面させられて、私はそんな自分がこれからどうなるのか唯々面白くて笑ってしまった。

そしてその晩、私が真っ先にしたことは、財布に残された唯一のキャッシュを握りしめてお馴染みのディスコ「ハミス」に出掛けたのだった。

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若かった私にとっても例外ではなく、ディスコテークという社交場はコミュニティであり気分を和ませるスポットでもあり、そして孤独を紛らわせる異性との出会いのチャンスでもあった。

これから先の事など考えてもどうなるものじゃない、この状況から逃れるような気持ちで踊り続けていると一人の同じ年頃の女性と知り合った。
彼女は少し離れた田舎町の高校生で、夏休みを利用して都会のヘルシンキに遊びに来ているらしい。一週間ほど滞在の予定でこの街に住む姉夫婦の家に世話になっていた。

私が盗難に遭って文無しになり泊まるところもなくて困っている話をすると、姉夫婦の所に連れて行ってくれて、どうやら彼女たちで話し合った結果なのか、数日後には両親の住む田舎町でしばらく厄介になる事になった。

 

 


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