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'71年~'73年、貧乏旅行の宿泊事情 [青年は荒野をめざした/番外編]

[前置き] 情報価値としては殆ど意味も無いような過去のヨーロッパ放浪記事を、スピンオフとして書いているのは自身の体験を年月を経た視点から再検証するためでもあります。

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'71年から'73年の2年2ヵ月ほどの間、期待に胸奮わせたり失望に打ちひしがれたりしながら北欧から北アフリカまで地図の無い旅を続けていた。
サハラ砂漠近くのヒッチでは丸一日のあいだ車を待った時もあった。また、お金が無くて野宿で過ごしたことも一度や二度ではなかった。
当時は世界中から若者たちがバックパッキング、無銭旅行というスタイルで異国を放浪する事が若者文化の流行りでもあって、そのための宿泊施設も今と比べてとても豊富なバリエーションが揃っていたように思う。

私が初めて簡易宿泊所に泊まったのは日本を出てまだ2週間足らずで、スウェーデン・ストックホルムの街に滞在した時だった。
臨時のアルバイト探しのために滞在していたのだが、ガイドブックに紹介されていた中世風の街並み「ガムラスタン(旧市街)」界隈の宿泊所を探し当てて飛び込んでみたら、なんとそこは『サルベーション・アーミー(救世軍)』という浮浪者専用の様な宿泊所だった。
フロントで薄汚れた毛布を一枚受け取って奥に向かうと、そこは二段ベッドがびっしりと並んでいるだけの殺風景な大部屋(タコ部屋)で、周りをよく見ると各国から流れて来たヒッチハイカー達とは別に地元の酔っ払いや失業者といった宿無したちが3割ほどだった。
その後も各地で劣悪な宿泊状況を経験してきたが、ヨーロッパの地に足を踏み入れた最初から浮浪者たちとの宿泊の洗礼を受けたことは環境に順応出来るメンタリティを作ってくれたようにも思える。

ストック-ガムラ.jpg
 ▲ストックホルム/湾岸エリアの億に「ガムラスタン」という中世風の地域がある。

スウェーデンでのタコ部屋はまだ屋根があるから良い方で、デンマークでは軍隊のキャンプ場のようなテントだけの粗末な宿泊施設で数日間寝泊まりしていた。
実際に並んでいるテントはカーキ色のアーミー色一辺倒で、少し離れたところに共同のトイレやシャワーが並んでいる。朝のラッシュアワーには長い列の出来るほどなのだが、意外とみんなマナーが良く割り込みや喧嘩など見たことは無かった。まさに軍隊の様な規律正しい宿泊施設だった。
考えてみれば、若者たちのほとんどは徴兵制度のある国から来ていて軍隊様式の生活は慣れっこになっている。寝袋をベッドに粗末なシャワーや共同トイレの集団生活にもまったく不快感はなさそうだった。
'70年代当時は世界の若者たちの間で「コミューン思想」というものが流行っていて、ヒッピーから発展したフラワーチルドレンやドロップアウターたちの共同生活は一種のファッションでもあったようだ。

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 ▲デンマーク/コペンハーゲン「チボリ遊園地」

Salvation Army の安宿やテント生活で過ごした後にも、北アフリカのチュニジア、アルジェリア、モロッコを渡るヒッチハイクでは窮乏の宿泊体験が続いた。
アラブ諸国のホテルには独特のエキゾチックな雰囲気があって“不思議大好きな好奇心男”にはたまらない魅惑の世界だった。
しかしどんな場合でも現地人向けの宿泊所を利用していたので、トイレのみ風呂なしでシャワーは共同といった簡易なつくりの部屋ばかりだったが部屋の壁や床のタイルはアラビア風幾何学模様でイスラム文化の香りを満喫出来た。フランス映画「望郷」の舞台となったアルジェのカスバの雰囲気そのままの安宿体験だった。

宿泊施設というものもそれぞれお国事情を表わしていて面白い。
スペインでは個人の住まいの一部を提供してくれるペンション(民宿)を利用していたが、あるペンションではそこの家族の娘が大の日本人贔屓(びいき)で、二泊ほどしただけなのだが毎晩私の部屋へやって来ては好奇の目で眺めて色っぽくすり寄って来たりして困った事もあった。スペイン語は分からなかったが、どうやら「日本に行きたい。連れて行ってくれ」という意味の事を言っているようでその情熱的なアプローチから逃げるのが精一杯だった。

当時のスペインやイタリアといったカトリック系の国では女性と肉体関係を持つと結婚しなければならない義務があって“それを守らないと一族の長から命を狙われる”なんて言う噂が私たち外国人ヒッチハイカーの間では通説だったのだ。
このカトリック系の倫理観は今でも健在なのだろうか?あれから四十数年経った今ではすっかり変わっている事だろう。

宿泊ベッド.jpg
 ▲ソ連時代のモスクワで泊まったエコノミークラスの部屋。とても殺風景な部屋だった。

 


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