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絶版本の中にあるもうひとつの事実 [随想随筆]

現在市場に出回っている書籍は、今の時代のこの社会に受け入れられているからこそ人々の目に触れる事が出来るという訳でしょうね。
戦時中のように検閲がある訳じゃあるまいし、表現の自由は守られているのだから流通が差し止められる書籍なんて無いでしょう…
…って、本当かな?

既に絶版になって社会の目に触れる事のない本の中には面白いものがある。
何気なく手に取った絶版本の中に今では伝えられる事のない当時の真相が記録されていたりもする。
それは最早社会の記憶から消されて意図的に封印されたものである場合もあるようだ。
そんな風化してしまった記事を発見するたびに、かつての人々の熱気や叫びは何と空しいものだったのかと思わざるを得ない。

原子爆弾_本.jpg 

「天皇と原子爆弾」は昭和35年に出版された大森 実のノンフィクション戦後秘史シリーズ第2巻である。
原爆投下の目標地は当初は京都だったが、ライシャワー博士(後にケネディ政権時代に駐日大使となる)の“国民的財産を破壊してはならない”という言葉でリストから削除されて最終的に①広島 ②小倉 ③新潟 ④長崎 の順で決定となった。

終戦処理のドサクサには様々な密約・陰謀といったエピソードがあり興味深い。この本では割腹自刃を遂げた陸軍大臣の妻・阿南綾さんや、米政府の最終回答で天皇に関する問題“サブジェクト・トゥー(従属)”を軍部を抑えるために意識的に誤訳したとされる松本俊一・外務次官。さらに終戦工作の諜報員として終戦に導く貢献をした藤村義朗・海軍中佐たちの直接インタビューといった当時でしか取材できないコメントも掲載している。

私がこの本を読んで思ったことは実際の真偽とは別に、見解というものはそれぞれの立場で異なる見方があって、どちらか一方を採択するという事は選択した者の資質が表われるという意味でしかない。
公開されているか否かは別問題で、真相というものは一面的なものではないという事を知恵ある人は自覚していなければならない。
ひとつの答え(見方)にこだわる者は、そのこだわりの中に自分自身を投影させて、場合によっては誤魔化している事もあるだろう。

もうひとつ読み返してみると面白い絶版本に槌田 敦・著「石油文明の次は何か」というエネルギー問題の盲点を突いた本がある。
これは昭和56年発行の'80年代における原子力や省エネルギー問題、リサイクル運動などに提言をしていた著者の快心作である。

特に興味深かった部分としては、

  • 省エネ政策は省エネ産業という石油多消費産業を育成することが目的となってしまう。
  • 原子力が石油の代替ではない。原子力は石油を使用して発電をする“石油発電の一方法”にすぎない。
  • 電力をエネルギーというのは便宜的な言い方であり、電力とは発電機を動かしている火力とか水力という動力を遠方のモーターへ伝達する方法であってエネルギー自体ではない。
  • 資源の枯渇よりも廃物の捨て場の枯渇が現実的な問題なのである。
  • 石油文明とは“石油など燃料で加熱して、水で冷やす文明”と言ってもよく、日本の工業用水の内90%は冷却水として利用されている。(残り約10%は汚物などの洗浄)
  • 都市でも農村でも大量の水が廃物や廃熱を処理する手段として用いられて、一説には石油を1使用すると結果として水をおよそ20消費すると言われている。
  • 国家や地方公共団体や企業は、汚染対策事業という産業の振興をはかろうとするが、熱汚染に対して汚染対策をしないことが問題を悪化させない最善策であり、廃物や廃熱を捨てる原則としては、汚染は発生源のすぐ近くに捨てるということに尽きる。
  • 土と水循環が地球のエントロピーを処分する自浄作用の基本であり、石油文明の次の社会では、資源としての水の能力の範囲で生活する技術を身につけなければならない。
  • 現代の科学技術とは突き詰めれば石油の技術であり、石油の能力の範囲内ではいろんなことができるが、石油の能力以上には何もできない。エントロピーの限界、たとえば廃物・廃熱の捨て場がなければ科学技術はまったく無力だなどという事を科学者は誰にも教えていない。

などなど…35年が過ぎた今でも、未だに議論が本質から外れて為されている事を発見してしまいます。

石油文明の次_本.jpg 

ちなみに余談ですが、昨今の新書や文庫のタイトルには疑問に感じるものが多いです。
スキャンダラスなものや煽情的なもので目を引かせたり、著者の意図というよりも編集者のマーケティング戦術にコロッと騙される自分が残念!だったりします。

 


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いっぷく

サブタイトルを付けて、しかもサブタイトルの方が長い、という傾向もありますね。
by いっぷく (2016-06-30 01:31) 

扶侶夢

>いっぷくさん、ご来訪&コメントありがとうございます。

時代の移り変わり…単なるトレンドと言ってしまえばそれまでなんですが、何だか多くのものが本質から遠ざかってゆくような気がしてしまいます。

by 扶侶夢 (2016-06-30 14:57) 

lamer

石油の次は電気文明でしょうか?
水力も火力もタービンを回す事で電力に変えている訳で、その点ソーラーパネルは
太陽熱を直接受けて電力に転化するので可成り有効だと思います。
自動車もバイクを含めて電力をエネルギーにしています。
by lamer (2016-06-30 17:23) 

扶侶夢

>lamer さん、ご来訪&コメントありがとうございます。

この本によれば、電力も原子力も石油の力を借りなければ完結しないという事で、石油必須の人間社会は崩壊まで続くという感じです。
石油の枯渇はまだまだ無さそうですがその前に廃棄物の処理に困るようで、著者は「石油文明の次の社会では水と土の利用が重要な地位を占めるだろう」と言っています。
by 扶侶夢 (2016-07-05 10:01) 

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