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椿三十郎の思い出 [タイムスリップ忘備録]

【椿三十郎の思い出】

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<椿三十郎> 昭和38年に東宝で公開された三船敏郎主演、黒沢明監督作品。大ヒット「用心棒」の続編とも言える時代劇で、ラストの居合対決シーンで血しぶきの飛ぶ仕掛けは、その後の時代劇映画に大きな影響を与えた。

 映画「羅生門」や「七人の侍」で不動となった黒沢・三船のコンビはその後も「天国と地獄」など数々の名作を生み続けたが、当時小学生だった私にはこの「椿三十郎」が理屈抜きに楽しめる映画だった。


 

 前作の「用心棒」で主人公の三船が出まかせに名乗った「桑畑三十郎」という名が、そのまま「椿三十郎」というタイトルとなって(椿の花が映画の中で重要な役割を果たすためでもあるが)髭ヅラで汚れ袴の素浪人キャラクターで登場する映画なのだが、これが実にカッコ良く、肩を揺さぶって歩く後ろ姿を私は真似たものだった。この薄汚い浪人剣豪のスタイルというのは三船の看板のようになって、その後の映画「座頭市と用心棒」やTV番組「荒野の素浪人」などで何度もお目にかかる事になる。

 そんな娯楽作品とも言える「椿三十郎」ではあるが、さすがは黒沢作品で、この映画の中で行なわれた実験は後の映画界にいくつかの影響を残している。

 ラストで仲代達也との決闘シーンで飛び散る血しぶきに、当時は誰もが驚かされたものだが、この頃はアメリカ映画でもそんなエフェクト技術はなかった筈だ。(当時のアメリカでは流血などの残虐シーンは御法度だった事もありますが)殺陣も「逆手斬り・弧刀影裡(ことえり)流」という特殊なスタイルで、このシーンを見るために映画館に居座って何度も見るという人もいたくらい、前代未聞の決闘シーンだった。

 

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 そしてこの映画が後の時代劇に大きな影響を与えたもうひとつの出来事は、殺陣のシーンで人を斬る度に響く「バシッ!」「ブシュッ!」という効果音。いつの間にか殺陣の音は当たり前になってしまったが、実はこの「椿三十郎」以前には殺陣の音というものは無かった。無声映画がトーキーになった事は画期的な事として記録されているが、殺陣に音が入った事は誰も気にも留めていない。しかし、これこそ黒澤監督ならではの画期的発明のひとつだと私は思っている。その後は剣の交わる音とか血しぶきの飛び散る音とかが、やたらと音響によって作られる事となるが、当時の黒沢監督はその音を創造するために、野菜を斬ったり薪を斬ったりして苦心惨憺したらしい。結局、牛肉の吊るしを真剣で斬る事によってよりリアルな音を作り出す事になるのだが、改めて聞いてみると現在の派手な効果音とは違って「バスッ!」というような意外と鈍い音がしている。確かにその方がリアルかも知れない。何しろ本当に肉を斬っているのだから。

 その後テレビの時代劇では「三匹の侍」で初めて殺陣に音を入れる事になるのだが、この頃から時代劇の殺陣の音はオーバーなものになってゆく。

 

<ご注意>
このコラムは十五年以上も前に発表した内容をそのまま転載しているため、その後に新事実が発見されたり、また今日では差別的とされる用語や表現があるかも知れません。『タイムスリップ』の趣旨としてそのままの形でアップしておりますので、その点はご了承下さい。

 

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