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'71年~'73年、貧乏旅行の食卓事情 [青年は荒野をめざした/番外編]

 情報価値としては殆ど意味も無いような過去のヨーロッパ放浪記事を、スピンオフとして書いているのは自身の通過して来た経験を年月を経た視点から再検証するためでもある。


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'71年から'73年の二年数ヵ月の間、ヨーロッパ諸国と北アフリカをヒッチハイクで廻って得た様々な体験は当時としてはとてもユニークなものだった。
残念な事は、当時の記録としての写真が殆ど残っていない事。現在のようにデジタルカメラも無かった時代で、いちいち現地で現像してプリントするのが億劫だったしコストもかかった。何度かネガをまとめて日本に送り、実家でDPTに出してもらったりしていたが、現像前の貴重なネガを盗難に遭って紛失してしまった。
所持金を全て盗まれてしまったことは勿論ショックだったが、それ以上に写真を始めとする日記やメモなど諸々の記録物を失った事が残念でならなかった。
(※ちなみに持っていたカメラはリコーオートハーフという小型カメラで、一眼レフのように綺麗な画像は撮れないレベルでした)


Ricoh_オートハーフ.jpg
 ▲昭和40年代に活躍した懐かしのハーフサイズカメラ「Richo auto half」


生活してゆく事に必死だったからのんびりとグルメを味わう余裕もなかったことは残念で心残りだった事のひとつでもある。ヒッチハイクで訪れた各国の街々では印象深い時間を過ごしたが、残念ながらグルメレポートとして記せるようなメニューや記事は見つからない。
思い返してみれば2年あまりの海外生活の中で一番豪華な食事だったのは出国して日にちの浅い旧ソ連・モスクワのホテルで取ったディナーくらいのものだった。
まるで宮殿の晩餐会の様な雰囲気の中、天井は満開のシャンデリアに覆われてテーブルには食べ放題のキャビアやビーフストロガノフが盛られた贅沢な食事のひと時で、後から振り返ってみれば高価なキャビアをもっと味わっておけば良かったと悔やまれた。



ヒッチハイクで訪れた街々ではその土地の名物料理などを味わう事もあったが、就労しながら暮らしていた国では生活感あふれる食生活を送っていた。
例えばイギリス/ロンドンではかの有名なフィッシュ&チップスを連日のようにテイクアウトで夕食のメニューにしていた。それでも時々米の飯が恋しくなるとロンドンは当時から国際色豊かな食材が手に入る国だったのでアジアンテイストに困る事は無かった。
’70年代のヨーロッパはEU連合になる以前でインターネットの普及もない世界はボーダーレスには程遠い時代だったが、ロンドンやアムステルダム、コペンハーゲンといった自由貿易の国々ではインドカレーの店や中華飯店が比較的多くてよく利用したものだった。


フィンランド/ヘルシンキで暮らしていた頃に生まれて初めて自炊を経験した。日本を飛び出して来たのは社会人になる前だったから当然独り暮らしも経験無く、今様の若者とは違って炊事・洗濯といった家事はからっきし駄目だったが、そんな私が家計簿をつけたり献立を考えたりするのだから旅は人を成長させるものだとつくづく思う。
とは言うもののヘルシンキでの食卓は殆ど毎日が「野菜炒めとスープに焼き飯」の連続だった。一日二食はバイト先の賄い食でやり過ごせたので面倒な自炊は一日一回で済んだが、それでも炊事が面倒だった私は一度に3~4日分ほど飯を炊いておいて冷蔵保管してその都度焼き飯にしていたという具合だった。


持ち帰りのフィッシュ&チップスやスプリングロール、職場の賄い食や焼き飯&野菜炒めといった自炊の定番etc.の他に、デンマーク/コペンハーゲンでバイトをしていた頃は下宿先に戻るとホットプレスのサンドをよく作っていた。
一時期ロンドンのサンドウィッチバーでアルバイトしていた時にマスターした手づくりサンドのバリエーションで、チーズが餅の様な感触ですっかり私のお気に入りメニューとなっていた。当時はまだ日本の一般家庭ではホットプレス器は普及していなくてチーズやハムを挟んでプレスするホットサンドを味わう人は少なかった時代だった。(とろけるスライスチーズもまだ販売されていなかったように記憶している)


欧州旅日記.jpg


思い起こしてみると、海外で生活しているというのに食生活は貧弱なものだったと痛感する。惜しい事をしたようにも思えるが、もともと観光旅行に来たわけでも無くて少し大袈裟に言えば“生きてゆくことに精一杯の生活”だったので食の楽しみを味わう余裕も無くて当然と納得してしまう。
しかし本当のところを言えば、ひとつひとつの食事のその時の旨さを今でも覚えていて、それらの温かみ匂いがかけがえの無い美味しさだったようにも思える。


確かに一流レストラン・一流シェフの絶品とはかけ離れたものだが、まさしく日常のリアルなテイストであった事には違いない。


 


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