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-07- 地獄のヒッチハイク [青年は荒野をめざした]

 

 いち夜明けて休む間もなくベルギーからドイツに向った。ケルン〜フランクフルト〜ミュンヘンと繋いでオーストリアを通過し、北イタリアに入る予定だったが、このドイツのヒッチハイクでとんでもない目に遭遇したのだった。
 ケルンからフランクフルトまでは順調だったが、そこからミュンヘンまでは約五〇〇キロの距離があり一日で到着するには困難な距離だった。
 実は、ドイツから真南にスイスを抜けてイタリアに入った方が距離的には最短コースだったが、わざわざ東廻りでミュンヘンを選んだのには訳があった。今年開催されるミュンヘン・オリンピックの会場にどうしても行くという目的があったからだ。その理由とは「ソ連の女子体操選手ナタリア・クチンスカヤに会う」という事。実は日本を出発する時からの考えで、秋のオリンピック開催中にミュンヘンに訪れて実際に彼女と握手をするというのが願いだったが、早々と来てしまったので「せっかく近くまで来たのだから会場だけでも見ておこう」という事にした訳だ。

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↑ '68年メキシコ五輪の華だった、我が憧れのナタリア・クチンスカヤ  
 
 
 何台かの車を乗り継いでフランクフルトを午前中に出たまでは良かったが、途中からピタリと車が止まらなくなった。午後になって雪が降り出し、あたりも薄暗くヒッチが難しくなりかけた頃、運良く一台の長距離トラックが止まった。

 「ダンケシェーン(ありがとう)」弾む声で感謝を表わし助手席に飛び乗った。行き先を聞くと「ミュンヘンまで積み荷を届ける」と言う。もうこのまま今日は足止めかとあきらめ始めた頃だったので、これで一気に目的地まで行けるとはまさにラッキーと喜んだのだった。
 ヒッチハイクでは家族連れとか旅行者よりは、やはり長距離ドライバーが一番確率も高いし効率も良い。仮に方向が違っても途中のドライブインなんかで別のトラック仲間を紹介してくれたりしてスムーズに目的地までたどり着ける。このドライバーも長く退屈な道中の話し相手として私を乗せてくれたのだろう。会話を交わして(言葉が通じなければお国自慢の歌でも唄って)乗せてくれたドライバーと楽しい時間を過ごす事がヒッチハイカーとしてのマナーである。

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 …ところが、この運転手が大変な相手だった。同乗してから3〜4時間も過ぎただろうか、さすがに会話も途絶え気味になって互いに沈黙が続くようになってきた。日中の疲れもあって、黙っていると睡魔に襲われそうになったが我慢して前方の景色を見ていると、時折センターラインが激しくブレるのに気付いた。
 山の登板を走行中でヘアピンカーブもあったりして車体がうねるのは理解できるが、それにしても異常にラインがブレるのだ。ふと助手席の窓から外を見ると、今度はガードレールにぶつかりそうに接近している。
 時間は夜の9時近くになって外は真っ暗、雪も激しさを増していた。ガードレールの向こうはゾッとするような断崖絶壁である。「おいおい、しっかり運転してくれよ〜」と隣の運転席に目をやると…

 「うわあ〜〜〜っ!寝てる!!」

 この時の私は生きた心地がしなかった。話し掛けるとハッと気付いたようにハンドルをとるのだが、それもしばらくの間の事でまたもやガードレールに近づいたりセンターラインを大幅に越えたりし始める。
 「このまま乗っていたら、その内、絶対に死ぬなあ…。しかし、この夜更けにこんな山道で降ろされる訳にもいかないし…」
 話し掛けては起こし、居眠りを始めるとまた起こし…山道のカーブをフラフラ運転しながら地獄のドライブが続くのであった。

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↑ ミュンヘンからインスブルックに向う道にアルプスの山々が見える


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