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-11- アラブな人たち [青年は荒野をめざした]

 

 留置場の貴重な体験をした後、別の安宿に数泊して街中を生活者の気分で楽しんだ。私は相変わらず観光名所には興味のない旅で、現地の生活を味わうのが楽しみの旅だったので、誰も行かないような所ばかりをウロウロしているとアッという間に日々が過ぎてゆく。もっと長居をしたかったが、先の予定もあるので心残りを感じながらもアルジェを後にした。
 チュニジア〜アルジェリア〜モロッコという北アフリカのルートの中で、丁度半分くらいの距離になっていた。まだまだ先は長いのだが、依然として困難なヒッチ状態は続いていた。そしてついにギブアップの時が来た。待てど暮せど一向に車が来ない。ついに十二時間も独りぽっちで待ち続けた。辺りの景色はただ暗くなってゆくばかりで、さすがの私も「もう列車に乗ろう」と決心したのだった。しかし列車に乗るにしても、街にたどり着いて駅に行かねばならない。今のこの状態からどうやって駅まで行けばいいのだろう?そんな事を考えながら寝袋に入って眠りについた。

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↑ アルジェリア/アナバの街の風景(絵はがきより転載)

 

 次の日もまったく車がつかまらないまま夕暮れになり一日が過ぎようとしていた。(何と!昨日から計算すると三十四時間も同じ場所に居た事になる)と、その時赤いオープンカーに乗った若者グループがやって来た。この地域では珍しくお洒落なファッションでアクティブな感じがした。
「日本人か?」と声をかけられて「そうだ、今夜泊まる所を探している」と答えると、「じゃあ、この車に乗れ」と言われた。
 車の中ではあれこれと話し掛けてくる。どうやら大の親日家らしい事は判った。カタコトの英語を話す様子をみると何人かは大学生か、それなりに教育を受けている連中らしい。車は夕闇の中を数十分程走り、見知らぬ村に入って行った。

 村に入ると数人の仲間たちが集まって来て、グループの一人が私を誇らしげに紹介し始めた。さっき知り合ったばかりなのに、どうやら「オレの日本人の友人だ」とか言っているらしい。みんな憧れと珍しさのまなざしで見つめてくる。
「おいおい、何かおねだりされるんじゃないだろうな…」あまりの友好ぶりに私の方が警戒心をもってしまうくらいだったが、実際は日本の事をとても知りたがっている純粋な若者たちであった。

 アルジェリアは当時、社会主義国であり(そのためこの国に入国するには、日本大使館でビザ申請をする必要があった)西側陣営では比較的に日本が技術提供や社会的支援をしていたため、在住の日本人商社マンも多いらしく親日家が多い。そんな事情が何となく分かってきて納得していたのだが…
「腹は減っているか?」と聞かれたので「イエス」と答えるとスパゲティのようなものとパンにスープを持ってきてくれた。食事をしながら談笑した後「今夜はここへ泊まってゆけ」と言う。勿論、願ったりで感謝を示すと、今度は「いつまでもここに暮していても構わない」と言ってきた。
「ありがとう」と答えて、寝床に与えられた小屋に向かおうとすると「明日はアジトの仲間たちにも紹介する」と言い出した。
「…アジト…って?」まさかアラブ・ゲリラじゃないだろうね〜!?一瞬にしてこの友好的な雰囲気の謎が解けた。
 わずか一ヵ月程前、イスラエルのテルアビブ空港で起こった「日本赤軍によるテロ乱射事件」、国際的には非難を受けた事件だが、当のアラブ諸国で「日本赤軍」はすっかりヒーローになっていたのだった。

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↑ アラブの若者たち。中央の男がグループのリーダーらしくカメラに向かってポーズをとっていた。

 

 ここ数日間の疲れを癒すかのようにぐっすり眠った私は、翌日すっかり陽の昇った頃にゆっくりと目覚めた。腹が満たされて屋根のある所で眠るという事は、こんなにも安心できて気分の良いものだったのか…。
 外の空気を吸おうと小屋を出ると、はやくも昨夜の仲間たちが集まっていて私の周りを取り囲んだ。人数は更に増えて中学生くらいの子供達までいる。色々と話が聞きたいらしく、物珍しそうな好奇の眼差しで見ている。しかし、英語は殆ど通じないので私はデタラメのフランス語を交えて身振り手振りで話すしかなかった。「日本のJUDOを教えてくれ」と言うので、高校の体育の授業で習った足払いや体落としを教えてやると、これがまた大ウケで何だか気恥ずかしいような気分だったが、とにかく信頼は得たようだった。

 これまで旅をしてきた中でも最高に親しまれて受け入れられた経験をして、改めてアラブの国における「日の丸」の偉大さを感じたものだった。それはアラブ・ゲリラを応援する日本赤軍の存在もあったが、片や社会のインフラ整備に貢献する日本の商社マンたちの存在も評価されている事も事実だった。が、それは兎も角も私としてはいくら快適とはいえ、このままここで暮している訳にもいかないので別れを告げる事にした。例の「アジトの仲間」とご対面してしまうと今後、話がどう展開するものか知れたものではなかったし、とにかく私はモロッコに行ってそこからヨーロッパに渡らなければならない。
 アルジェリアでのヒッチは距離も長くて苦しかったが心に残る旅だった。途中の町で立ち寄った居酒屋では奇妙なアラブ風ダンスを披露する女性に迫られるというエピソードなどもあって、実に楽しいアラブな人たちの生活を垣間見たような旅だった。


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