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ベトナム戦争は何故語られないのか [随想随筆]

最近になって田中角栄・元総理が再評価され注目されているが私には少しばかり気に入らない事がある。

もともと総理大臣に就任した時には「今太閤」などと国民的英雄として持ち上げておいて、一旦ロッキード事件や黒い金脈政治などと悪評が立つと手のひらを返した様に散々バッシングする、そんな世論のいい加減なお調子乗りに辟易としている。
否、大衆の世論に限らず、かつて当時国会議員でその後は都知事にまで為った人が自己の著作『天才』で大いに田中氏を賞賛しているが、彼なども国会議員の時代には『ロッキード黒い霧』と弾劾していた筈だ。世の政治家やオピニオンリーダーと称されている人たちでさえ時流に流された発言をするものだ。
 

同じ様な意味合いで、かつてアメリカが醜態をさらしてあれほど非難されたベトナム戦争の事を人々は忘れ去ったのだろうかと思う事がある。
若い人たちにとっては湾岸戦争以降の対イスラム国との戦いが主になっていると思われるが、かつて米ソ冷戦時代はアメリカ対ベトナムの戦争が世界中の注目の的だった。

ハーツ&マインズ.jpg 

アメリカがベトナム戦争に介入し拡大していった経過は、今日の対イスラム国との戦争と比較して興味深いものがある。
正義のアメリカが世界秩序を守るために悪の枢軸をやっつける構図は常套手段なのだが、今日の世界を巻き込んだ対テロ撲滅戦争は我が国としても支援しているだけに、単純に批評する事は差し控えたい。

ベトナム戦争では、わが国は当然アメリカの支援に回っていた訳で、基地を貸したり見えないところでは資金援助や諜報活動もしていたかも知れない。
世界中の若者に「Stop the War.」反戦運動が広がって、日本でもベトナム戦争介入に対する批判は政治運動へと広がっていった。(政治運動の是非は別次元の問題として疑問を残してはいますが)
湾岸戦争以来、イラク派遣や戦費負担など有形無形にアメリカの支援に回っている我が国の国民は本当に国際的なテロが何故どのような理由で起こるのか分かっているのだろうか?
何かキナ臭い事件が起こると、訳も分からず一方的に「暴力反対!」とシュプレヒコールしている一部の人たちと同じなのではなかろうか?

勿論、自爆テロや無差別爆撃などを認めるものではないけれど、それは表層的な問題であってどちらが加害者でどちらが被害者なのかは視点が様々に判れるところである。


語ろうとしているのはベトナム戦争の真相についてではなく、ここで私が問いたいのは、『ベトナム戦争を見て来た我が国の大人たち(もはや還暦も過ぎた老人となっていますが)は、今日のアメリカの仕掛けている戦争を見て何も疑問視しないのか?』という事だ。
分析や評論を駆使して上手く世の中を立ち回ったつもりでいても、大人たちの狡猾さは若者たちからすっかり見透かされている。

先日、『ドローン・オブ・ウォー』という映画で無人戦闘機による爆撃の悲惨さを観た。
ベトナム戦争で田畑を空爆し、枯葉剤を散布して一般農民を巻き込む様に対して、私たちは怒りと悲しみを覚え反対を唱えた筈なのに…いつの間にかまた同じような事を繰り返している。
何故幾度となく同じことが繰り返されるのか、それは大人たちが何も学ばず何も反省する事をしないから、そのまま次の世代に受け継がれてゆくからだろうと思う。

物事の基準がアナログからデジタルに移行して世界が変質してゆくことは止む負えない事だが人間が人としての感覚を麻痺させる事によって、ますます非人間化してゆくという事には多少の危機感を感じてしまう。
戦争の悲惨さや悲痛な感触を感じなくなってしまう事ははなはだ危険な事のように思う。

何故ベトナム戦争は語られないのか?
冷戦構造時代の象徴となる戦争なのに、今日ではあまり語られることもなくなってしまった。
そしてテロ撲滅のスローガンばかりが声高々と叫ばれて私たちは゛正しい戦争”をしているように錯覚している。
何故テロが起こるのか?その根源はどこにあるのか?これこそが肝心な見極めるべき部分の筈なのに…。

我が国はアメリカの戦術であった原爆によって悲惨な結果を迎えた。その経験が被爆国という立場で戦争による無差別な殺戮にプロテスタントする権限を与えていると思う。
そんな世界的にも希少価値のある立場を得ている日本という国が、自国にとって価値の無い戦争を先進国として同調しながら協力している事はまさに世界観の矛盾である。

第二次大戦でアジアの国に原爆を投下したアメリカは、ベトナム戦争では枯葉剤や火炎放射器を駆使してソンミ村虐殺などのベトコン刈りを行なった。
広島・長崎の被爆者が生存後も後遺症に悩まされたように、ベトナムでは子ども達や多くが枯葉剤の後遺症に悩まされ、多くの奇形児たちが生まれ出でた。
そして今、9・11後の国際社会はアメリカ提唱の元に対テロ撲滅戦争をイスラム国対象に推進している。
私はアメリカが悪いとか間違っているとか言うつもりはなく、それぞれのお国事情があるので政策の違いがあるのは当然なのだが、我が国には一方的な情報しか入ってこないという事に、また国民は訳も分からず一方的に偏る傾向があるという事に将来的な危うさを感じているわけである。

 


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アヨアン・イゴカー

一定の年齢層では、問題意識を持っている人々も多いと思います。やはり心配なのは、若者たちです。
企業や政府が、マスコミを買収したり圧力を掛けることによって、情報を制限し、一方通行にさせようとしていることです。
現在のようにインターネットのある世界では、あちこちで起こっていることを、必ずしもNHKのニュース以外にも入手することができます。本来最も中立的立場を要求されているNHKもかなり最近は偏向報道を行っています。
草の根運動で、身の周りの人たちに先ずは発信し続けてゆかなければ、未来は開けてこないと思っています。
こういう記事を、ソネットブログで書いて頂くことは、嬉しいことです。
by アヨアン・イゴカー (2016-10-03 09:10) 

don

こんばんは。
9世紀から続くイスラムVSキリストの対立に巻き込まれたくないですよね。
レパント海戦以降はイスラムは分が悪いです。
そろそろ、アンチグローバルの世の中になって来たので、
弱者を拾い上げて、イスラムのターンかなと思ってます。

日本は関係ないので、うまく距離をおくべきです。





by don (2016-10-03 21:55) 

扶侶夢

>アヨアン・イゴカーさん、ご来訪&コメントありがとうございます。
私の意見も一個人の主観として偏見や固定観念によって間違っているかもしれませんが、同じような過ちが何度も繰り返されている状況を眺めると、人は誤りを訂正する学習能力が無いのかと考えてしまいます。
by 扶侶夢 (2016-10-04 20:04) 

扶侶夢

>don さん、ご来訪&コメントありがとうございます。
アンチグローバルでイスラムのターンになっても、これはこれで困りものなんですが…そうやっていつの時代も世界はブレながら進んでゆくのでしょうか。
それにしても私は再び米ソの冷戦時代がやって来るのかな?なんて想像したりしています。但し今世紀は中国がキャスティングボードを握っていたりして…。
by 扶侶夢 (2016-10-04 20:14) 

いっぷく

中居正広にその矛盾を突かれて石原慎太郎氏は逆ギレしたわけですよね。

今頃になって、一部のマスコミが石原慎太郎の出自まで(真偽はわかりませんが)ほじくりかえし始めましたが
結局それまでは、タブーがはたらいていたんでしょうね。
by いっぷく (2016-10-08 01:27) 

扶侶夢

>いっぷくさん、ご来訪&コメントありがとうございます。
マスコミが出自をほじくりかえし始めているんですか?それは知りませんでした。マスコミはいつも自己の失策を他人のせいにする癖がありますから、問題を余計に歪めてしまうんです。

石原氏に関しては、とにかく国民的英雄の兄にあたる人ですからマスコミに限らず批判する事はタブーだったのでしょうね。
by 扶侶夢 (2016-10-08 15:48) 

lamer

自分に直接不利益にならない事は関わりないのですかね。
そんな感じが広がっているようでなりません。
厚化粧の女と卑下した時は威勢が良かった人が、いざ100人委員会で
証言となるとヨボヨボしちゃって書面でとか時間を考慮してほしいと言っちゃて・・・
田中角栄を褒めちぎって一儲けなんて同じ人間とは到底納得がいきません。
ベトナヌ戦争では戦わされた米兵が精神的に大きなダメージを負って帰国した事は
良く知られているでしょう。
知られていても自分に直接関わりが二から只に話でしかなくて忘れられてしまう。
恐ろしい事です。
by lamer (2016-10-12 21:21) 

扶侶夢

>lamer さん、ご来訪&コメントありがとうございます。
自分に関わりが無いと判断していれば、何事でも本気で考える気にはならないものでしょう。
寄生虫は自らが寄生して生きる存在である事を忘れると、命の供給源の存在を無視してしまうから、結局自滅してしまうのですね。
何が自分を生かしているのか?何が利益で何が不利益のなのか…自覚をしていればそれで良いのですが
by 扶侶夢 (2016-10-22 17:24) 

風船かずら

なぜテロが起こるのかの根源を考えないのではいうのは私も個人的に感じていることです。一方的な悪を作り上げて正義の戦いをしてと思うことは人間の認識の限界なのでしょうか。
by 風船かずら (2016-11-28 10:36) 

扶侶夢

>風船かずらさん、ご来訪&コメントありがとうございます。

テロに限らず、諸悪の根源について「何故?」という質問は御法度がおおいようです。
関係者たちは分かっているみたいですね、それらは利権者の為に必然的に行われているという事を。
本当は世界の抱えている問題なんて本気になれば解決できる事ばかりなんです。解決したくない人が発言力や財力・権力を持っているから解決出来ないだけなんでしょうね。
by 扶侶夢 (2016-11-28 17:33) 

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